月が雲に隠れた夜だった 世界は寒気と暗闇に包まれていた 俺は当てもなく街灯の光を頼りに徘徊していた 「おっ 悪の総統かな」 「・・・俺を知っているのか」 「そりゃあ知ってるよ  今や、悪の英雄だからね」 「そう言われるのは気分が悪くない」 「実は私はこれから放火に行くつもりなんだ  一緒にどうかな」 「放火か・・・  悪くないな」 横に並んで歩きはじめる 「なぜ放火をやってるんだ?」 「きっとあんたが殺人してるのと同じさ  私は世の中の全てがムカつくんだよ  全てを燃やし尽くして灰にしてやりたいんだ  毎日毎日、24時間ずっとイライラし続けて憤死しそうだ  放火している時だけイライラを吹き飛ばしてすっきりしたおだやかな気分になれる」 「よくわかる」 「やっぱり話が分かるね  私たちは同類ってわけだ」 「一部ではそうかもな」 「どこか違う?」 「さあな  おまえの事など俺は知りもしない」 「冷たい言い方だね  私も女だ  優しくされたいもんだ」 「気が強い女は嫌いだ」 「じゃあ、あんたは私の事は嫌いかもね」 「ここに燃料を隠している  せっかくの総統との共演だからね  派手に行きたい  今夜は存分に使うよ」 「到底、手で持ち運べる量じゃないな・・・」 「なんとかしてよ」 「・・・いいだろう」 「コンビニでどうするってわけ?  台車でも借りるの?」 「それよりもいいものだ」 俺は店内と周辺の人間を殺害し尽くした 死体から車のカギをあさる 「この車がいいだろう・・・」 「やるじゃん  たよりになる」 車に燃料を積み獲物へと向かった 「ここでもまた問題だ  鍵がかかっている  このくらいの建物になると内から燃やさないと燃やし尽くせない  何とかして侵入しないと」 俺は扉を開けた 「今、どうやったの?」 「俺にもわからない  俺の能力だ」 「ふーん・・・  まぁいいわ  あんたは屋上の窓を開けてきて」 俺は階段を駆け上った 窓を開け放ち、開かない窓やガラス張りを斧で叩き割った 「こんなものでいいだろう・・・」 一階へと戻った 「火をつけるよ 外に出て」 燃料を垂らしながら店外へと出る 燃料に火をつけると火柱が店内へと走り始めた 「もっと遠くへ はやく」 爆音が響き身体が吹き飛ばされた 「この一瞬が楽しみなのよ」 建物はまるで太陽のように輝き、窓からこぼれる光の揺れが店内の激しく燃え上がる炎を表現した 冷たかった空気暖められ、建物の最上階の窓からは黒い煙が立ち上り雲を塗りつぶそうとした 「最高の気分  私には世の中の嫌なものを燃やし尽くす力があるんだって実感できる  この先、何があっても燃やし尽くしてやる  過去の嫌な人間も場所も全て燃やし尽くして苦しみから解放されるの」 しばらく眺めた後に、車に乗って現場を離れた 「わたしたちは仲間」 「急にどうした」 「仲間になろうって言ってるのよ」 「仲間などいらない  人間はすぐに争い合い敵対する」 「けんかしても敵になっても目指す理想は同じ  それって仲間って事でしょう」 「何が望みだ」 「私は世界を燃やし尽くしたい  建物も森も生き物も全てを燃やし尽くして地上の全てを灰にしたい  その気持ちを認めて欲しいだけ」 「・・・いいだろう 認めよう  俺も同じ気持ちだ  自分も含めて全てを燃やし尽くして灰にしたい」